悪魔の住処、紅魔館。
血の契約から時は流れ、今この紅き館は幻想の世界に存在していた。
「ふぁ〜あ、っと、おはようございます、咲夜さん」
紅美鈴。こちらに来てから出会った彼女は現在、この館の門番をしている。
「惚けてるとまたあの黒いのが突っ込んでくるわよ」
「惚けてなくても来ますけどね。ふあぅ……」
美鈴はまた欠伸を一つ。
この調子だとまた昼寝か……。
咲夜の仕事が一つ増えた。
溜め息をつく咲夜を傍らに、中華風の服を身に纏った妖怪は、毎朝の日課である太極拳を始めた。
そして咲夜はメイド長。
今日もまた、時間を操りながら業務をテキパキとこなす。
総てはレミリアお嬢様の為に。
「そういやさ、お前も運命を操られたのか?」
「また突破されたのね」
侵入者一名。
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙。
「もう、あの子クビにしようかしら」
「そうしろよ。それなら私がもっと来やすくなるぜ。あと質問に答えろ」
「はぁ……」
溜め息をまた一つ。
「……多分、ね。お嬢様の能力は周囲の人殀総てに影響を及ぼしますから」
「ふーん、そうか」
「何で急に?」
「いんや、別に」
そう言うと、箒にまたがり図書館の方へと飛び去っていった。
「本は持って行かないで下さいねー! ……聞こえてませんね」
後に聞いたところ、魔理沙はパチュリーの図書館でもレミリアの能力について調べ回っていたようだ。またラーニングするつもりなのだろう。どう考えても無理なのだが。
「さて、どうしようかしら……」
ともかく咲夜は、美鈴へのお仕置きは何がいいかしら……、と考え始めた。
そこに、咲夜の主、レミリアが現れた。
「咲夜」
「うーん……」
しかし、咲夜は主の声も聞こえないぐらいに自分の世界へ入り込んでいる。
「さくやー」
「ふふふふふ……」
悪魔を思わせるような禍々しい笑みを浮かべる咲夜。勿論、レミリアの声は全く届いていない。
「さーくーやー!」
「はい! すみませんお嬢様!」
やっと気付いた。
「あー、そういう思考は時間を止めて誰にも気付かれないようにやってくれないかしら?」
「うっ……」
もう付き合いも長い。相方の趣味は理解している。が、見苦しい事に変わりはない。
「それより咲夜、外に出るわよ」
「また神社ですか?」
レミリアは最近、博麗の神社へ入り浸っている。
神社に吸血鬼というのはいささかみょんな光景ではあるが、魔法使いやら鬼やらスキマ妖怪もいるので、奇妙さは何割か軽減されている。
「ええ、そうよ」
「…………」
咲夜は無言。何か言いたげな顔をしているが、レミリアはそれを無視した。
「さ、行きましょう」
そう言ってレミリアは外へ出る。
広い庭の中頃まで来た時、急にレミリアの見る風景が変わった。
目の前には紅魔館。
丁度真後ろに向いた形だ。
「あら?」
「どうしたのですか、お嬢様?」
笑顔で訊ねる咲夜。
「……行くわよ」
「はい」
時よ止まれ――
しかし、咲夜はまた時間を操り、レミリアを手前へ動かし、館の方へ向かせた。
元いた場所にトランプを残すのは相変わらずだ。
今はジョーカーではなく、ハートのQとスペードのJの二枚である。
――そして時は動き出す
「……咲夜」
「なんでしょうか?」
「あなたは私に『今起こった事をありのままに話すぜ』って言ってほしいのかしら」
図書館で読んだ本からの引用だ。
「…………」
咲夜は無言。
「……やーめた。疲れたわ、お茶にしましょう」
「えぇ、そうしましょう、お嬢様」
咲夜がとびきりの笑顔を見せた。
つまるところ、咲夜はレミリアがあの巫女にべったりなのが気にくわないのだ。
「咲夜ー、肩車してー」
「はい、お嬢様」
肩の上に主人を載せた咲夜は、満面の笑みを浮かべ、幸せな気持ちで一日を過ご
した。
――もちろん、美鈴へのお仕置きが免除される事はなかったのだが。
身心共に傷だらけの中華少女。
頑張れ美鈴!
負けるな美鈴!
みんなが君を愛している!
〜あとがき〜
あーカオス。ども、P-W/Ryoです。
最初は前編で終わる予定だったんです。
正直後編とエピローグは蛇足な気がする。
オチはもっと余計。すべてをぶち壊す勢いです。
……あれ、フランはずっと地下室だったっけ?
紅魔館から出してもらえないだけだったっけ?
後者だったと思うけどまぁ前者だったらその時はその時だ。
とりあえずさ、厨二病はほめ言葉だぜ。
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