少女達の境界
さて――、暇である。
「メリー、何かネタな い?」
「ないわ。そっちは?」
「ないわね」
「あなた自慢の裏表はどうしたのよ、蓮子」
私の裏表ルートだってそうそう万能ではない。ないものはない。それがこの世界の理である。
「まぁ――、今日はまったりしましょうか」
「そうね。うん、それがいいと思うわ」
しかし――暇である。
真正面に座る少女は持参した文庫本を読み耽っている。
残念な事に本は持ってきていない。借りにいくにしても買いにいくにしても面倒だ。まったりすると決めた以上、とことんまったりしたい。
こういう時は……、考え事でもしておこうか。
境界とは、全ての事物を分かつ線である。
例えば夕刻――これは人が起きて活動する昼と冥きモノ達が跋扈する夜の境界。
――とまぁ、これは目に見える境界の例なのだけど、普通の人間の目では見ることの出来ない境界も存在する。というか、ぶっちゃけこっちの方が遥かに多い。
そして、その本来なら目に見えない境界を「視る」事が出来るのが私の目の前にいる少女――、マエリベリー・ハーンである。
「……ん?」
こちらの視線に気付いたのか、メリーが顔を上げてこちらを見る。
「いや、なんでも」
「そう」
一言だけ返し、メリーは再び本の世界に身を沈めた。
――話を戻そう。彼女には世界の綻びが見える。私達の住む世界と、違う理で動く別の世界、その境目を見る事が出来る。
――そういえば一度、無意識のうちに夢と現の境界を越えてたんだっけ。
本当に気持ち悪い目――だけど、ちょっと羨ましいな。
そもそも、メリーそのものが羨ましいのよ。
さらさらの髪、艶やかな肌、透き通るような蒼い瞳。女性の私から見ても、彼女は可愛い。美しい。綺麗だ。
いや、どんな美辞麗句でも称えきれない美しさというものがある。メリーの美しさはそういう類の――って、私は一体なにを考えてるのよ。
頭が痛い。いや、別にイタくはない。断じて。決して。確定的に。
閑話休題。メリーの目と境界の話だったわね。
見るだけにとどまらず、干渉出来るまでに成長しつつある異能の目。
お願いだから、異世界との境界を越えて突然私の前からいなくなる、なんて事はよして欲しい。
せめて――、
「蓮子」
「なんでしょうか、姫」
冗談めかした事を言いながら顔を上げると、眼前に麗しい少女の顔があった。目測約六センチメートル。
……近いって。
「何よ姫って。じゃあ蓮子は姫を守る高貴な騎士、って所かしら?」
メリーの甘い吐息。くすぐったくて、心地良い。
「なんで私がメリーを守らなきゃいけないのよ」
「あら、頼りにしてるのよ?」
笑顔が眩しい。クラクラしてくる。
「で、何か考え事してたみたいだけど?」
「んー、まあちょっと、ね。境界の事とか自分なりに考えてたのよ」
「なるほどね。で?」
「で? って何よ」
「いや、どんな事考えてたのかなー、って」
「んーと、まあ、出た答えは……『あなたが戻って来れないような境界を越えてしまうのなら――』」
せめて――、
「『――私も連れて行って欲しい』かな?」
「もちろんよ。だって私達は二人で一つなのだから」
「そうよね。……いつか」
いつか、
「一緒に……行けたらいいわね」
「行けるわ、私とあなたなら」
いつか行ける。きっと、二人で。
――たとえ、それがこの世界の理に反していようとも。
私達を縛る境界だって、簡単に越えていける。その為の力。
「この世界はなるようになるように出来ている――」
メリーが言の葉を紡ぐ。
「でも、それをなるようにならないようにするのが――」
私もそれに続いて。
『――私達、秘封倶楽部だから』
二人の声が重なる。刹那、メリーが二人を分かつ境界を飛び越え――、少女達は口付けを交わした。
あとがきでも書いてみるかのコーナー
どうも、よく考えると半年振りの作品です。
前回は夏コミ頒布の奴ですね。つまりSSページの更新はほぼ一年ぶり、と。
……俺は一体今まで何をしてたんだ。
とりあえず今回秘封倶楽部で一本書いてみました。この二人、大好きです。
もうおめーらずっとちゅっちゅしてりゃいいんだよ! ってぐらいに大好きです。
さて、お気づきの方も多いでしょうがこの物語には続きがあります。
つまりらぶちゅっちゅ、そして怒涛のネチョです。
そんなものはなかった。
と、言うわけでご愛読ありがとうございました!